横浜地方裁判所 平成11年(ワ)4637号 判決
主文
一 被告らは各自原告X1に対し、金一九八六万四八八六円及びこれに対する平成一〇年一二月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは各自原告X2に対し、金一五三四万八一三〇円及びこれに対する平成一〇年一二月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
五 この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは各自原告X1に対し、金四六八一万〇七七三円及びこれに対する平成一〇年一二月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
被告らは各自原告X2に対し、金三四一二万五八二〇円及びこれに対する平成一〇年一二月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
交通事故に基づく損害賠償請求事件。
一 (争いのない事実)
1 本件事故の発生
(一)日時 平成一〇年七月八日午前四時二〇分頃
(二)場所 横浜市<以下省略>
(三)加害車両 被告Y1運転の被告会社所有の大型貨物自動車(横浜○○か○○○)
(四)被害車両 亡B運転の原動機付自転車(神奈川区け○○○)
(五)態様(争いのない限度)
前記日時場所において、右折進行する加害車両が直進進行する被害車両に衝突しこれを転倒させた結果、亡Bは脳挫傷により平成一〇年七月八日午前九時一三分死亡した。
2 被告の責任
被告Y1は民法七〇九条に基づき、被告会社は(被告Y1の使用主で本件事故は被告Y1が被告会社の業務のため加害車両を運転中惹起したものであるから、)民法七一五条及び自賠法三条に基づき、各責任を負う。
3 原告らは亡Bの父母であり、同人の権利義務を二分の一ずつ相続した。
4 既払金(平成一〇年一二月一五日支払) 金三〇〇〇万二一〇〇円
二 (争点)
1 事故態様―被害車両の一時停止の有無、加害車両の右折合図の有無等
2 損害
(原告らの主張)
(一) 亡Bの損害
(1) 逸失利益 金七〇八五万九七三六円
(2) 相続 原告らはこれを二分の一ずつ相続した。
(二) 原告X1の損害
(1) 治療費用 金八一九〇円
(2) 納棺処置輸送費用 金三四万〇九三五円
(3) 葬儀費用 金二三三万五八六四円
(4) 慰謝料 金一二五〇万円
(5) 弁護士報酬 金一〇〇〇万円
(6) 亡B逸失利益相続額 金三五四二万九八六八円
(7) 総額 金六〇六一万四八五七円
(三) 原告X2の損害
(1) 慰謝料 金一二五〇万円
(2) 亡B逸失利益相続額 金三五四二万九八六八円
(3) 総額 金四七九二万九八六八円
損害については、逸失利益の算定方法、葬儀費用の金額、既払金の充当関係等が争点となっている。
3 過失相殺
(被告らの主張)
本件現場は見通しが良く、亡Bの側も加害車両の動静につき前方不注視であった。
両車両の衝突時の速度は低速で、衝突による衝撃はさほど大きくなかったのに、亡Bが死亡するに至ったのは、ヘルメットを(正しく)着用せず、路面で直に頭部を打ったことによるものである。
(原告らの主張)
本件事故は、事故直前まで被害車両に気付かなかった被告Y1の著しい注意義務違反及び右折合図も出さずに大回り右折をした粗暴な運転態度によるものであり、亡Bには結果回避可能性もない。
亡Bはヘルメットを正しく着用していた。仮に亡Bが頭部を打った時点でヘルメットがはずれていたとしても、それは着用方法が不適切であったためではなく、本件事故による衝撃の激しさによるものである。
第三争点に対する判断
一 事故態様等
甲一、三、一〇、一一、乙一ないし一一によると、以下の事実が認められる。
本件現場は、国道一五号線浦島町交差点から南東約三〇〇メートル、子安通一丁目交差点から南南東約三〇〇メートルの地点で、商業街(道路両側は、民間会社及びその所有の緑地帯)の、歩車道の区別のない、幅員片側三・一メートル、路肩幅員〇・七メートルの、特に起伏のない一般市道であり、a株式会社○○ターミナルの車両入口前である(なお、右二交差点及び○○ターミナルの位置(公知の事実)との位置関係から、乙一(実況見分調書)の、子安通一丁目交差点からの方位及び交通事故現場見取図第一図記載の「発生現場」の位置は誤っているものと思料するので付言する。)。
本件事故当時、天候は晴れ、夜明け前の薄明かり状態であったが、街路灯や加害車両の前照灯により、視認状況に問題はなく、一〇〇メートル見通しが可能であった。
被告Y1は、別紙図面①、②、③のとおり、左折して本件現場に至った。○○ターミナル入口から約一五メートル手前の③でここに入るためハンドルを右に切り始めた。そのとき、入口の向こう側のに乗用車が駐車していた。被害車両を発見したのは、<ア>にいた同車と四・九メートルまで接近した④であり、急ブレーキをかけたが、二・九メートル前進したで衝突し、さらに〇・七メートル前進して停止した(加害車両のスリップ痕が、右後輪のが二・一メートル、左後輪のが一・五メートル残されていた。)。被害車両は転倒し、<イ>に亡Bが転倒し、<ウ>に被害車両が転倒し、<エ>に眼鏡及び携帯電話、<オ>にヘルメットが各落ちていた。
亡Bは、新聞配達の途中であった。被害車両の後部荷台には配達途中の新聞が積載されていた。被告Y1は、当日午前四時頃加害車両を運転して被告会社を出発し、○○ターミナルで宅配荷物を積んでa社新横浜営業所まで運ぶことになっていた。同人は居眠りしていたわけではないが、被害車両に右時期に至るまで全く気付かず、同車が前照灯をつけていたのかも、亡Bがヘルメットを着用していたのかも全く認識がない。
被告Y1は、○○ターミナル入口横の事務所で通報を依頼し、亡Bは救急車で済生会神奈川県病院に収容された。
亡Bは、急性硬膜下出血、頭蓋骨骨折、脳挫傷(以上いずれも右側頭部)、下顎骨骨折、胸部打撲、肺挫傷、右下腿挫創(当初骨折とされたが変更された。)、の傷病名で、右病院の脳神経外科において、減圧術の手術を行ったが血圧低下し心停止となり、心マッサージ、昇圧剤投与しても快復せず、脳の損傷が著明で血腫除去術で救命できなかったものとされた。直接死因は脳挫傷とされた(亡Bは、昭和五四年○月○日生まれで死亡時一九歳。)
警察における死体検案報告書によると、全身所見は、右脳挫傷・硬膜下出血の他、右側頭中心に半円形の手術創、右後頭部に打撲擦過(?)傷、右下腿骨骨折、右耳介後部と右眼窩に皮下出血が認められた。
亡Bの着衣のうち、上衣の半袖Tシャツには、損傷箇所は認められず、左袖口に黒色払拭痕が認められ、前面右袖口、胸部、右胴体部分に血痕、後面右肩下方、右胴体部分に各血痕が付着し、ズボンには、損傷箇所は認められず、前面右膝部分、すね部分、裾部分に灰色の塗料様の物が付着していた。ヘルメットは、頭頂部に細かい傷は認められるが、損傷や塗料等の付着は認められなかった。
加害車両の破損状況は、①右前部バンパー凹損、②右前部角バンパーカバー擦過及び亀裂、③右前部方向指示器レンズ破損、④右前照灯上部キャビン部凹損及び亀裂、⑤同右横金属部分亀裂、被害車両の破損状況は、①前籠右側曲損、②前照灯左方傾き、③右カウル凹損、④右側面工具入れ擦過及び亀裂であり、前輪の変形、ホイールベースの減少等はほとんどなかった。加害車両②と被害車両①が一致したので、加害車両の右前部角バンパーカバーと被害車両の前籠右側が衝突したものと考えられた。
右衝突態様及び、衝突時の加害車両のタコグラフチャートを分析する等した結果、加害車両の速度は時速一二ないし一八キロメートル前後、被害車両は時速二〇キロメートル以下のいずれも低速度であるものと考えられた。
二 損害について
1 逸失利益の相続分 各金二四九一万七七三二円
甲七、八及び弁論の全趣旨によると、亡Bは、新潟県立b高等学校を平成一〇年三月三日に卒業し、大学進学を目指して、△△奨学生として、新聞配達のアルバイトをしながら予備校の□□に通っていた事実が認められる。そして、今日少子化の影響で、特定難関校にこだわらない限り、本人の意欲があれば大学進学が容易であることは公知の事実であり、右のとおり亡Bの意欲は認められるので、平成一一年四月に大学に入学し、平成一五年三月に卒業する蓋然性は高いと認め、大卒の平均賃金をもって計算することとする。
そこで、平成一〇年度の大卒全年齢平均賃金六八九万二三〇〇円を基礎とし、生活費控除を五〇パーセント、稼働期間を二三歳から四四年間とすると、
6892300×0・5×(18・0071-3・5459)=49835464
これを、原告らが各二分の一ずつ相続するので、各二四九一万七七三二円となる。
2 原告X1の損害
(一) 治療費(甲三、四) 金八一九〇円
(二) 納棺処置費用(甲五) 金三四万〇九三五円
(三) 葬儀費用 金一二〇万円
甲六によると、原告X1は亡Bの葬儀を行い、喪主として金二三三万五八六四円の葬儀費用を支出したことが認められる。しかしながら、現実に行われる葬儀には規模や価格の違いがあるものの、一人の人が死亡したことを悼む儀式として価値的な差違はないこと、葬儀は必ず行われるものであること、香典収入が考えられること等から、本件事故と相当因果関係を有する損害としては金一二〇万円をもって相当と考える。
3 慰謝料 各金一〇〇〇万円
4 以上合計
原告X1 金三六四六万六八五七円
原告X2 金三四九一万七七三二円
三 過失相殺
前記一の認定事実を踏まえ、以下のとおり判断する。
本件事故現場は、交差点ではなく、見通しの良い直線道路で、駐車車両はあったが特に見通しの妨げとなっていたものとも認められないので、直進車優先の原則及び、加害車両は大型トラックで、被害車両は原動機付自転車であることに照らし、被告Y1側の過失が大きいものと認められる。
しかし、亡B側も、同様に見通しが良いのであるし、亡Bは同年春より現場付近で新聞配達のアルバイトをし、同所がトラックの出入りする場所であるとの認識もあったと考えられること、加害車両が現場の約一五メートル手前から(右折合図をしたとの証拠はないものの)ハンドルを切り右折行動を開始したこと、双方低速であったことも加味すると、亡Bもまた加害車両の動静を注視して安全な運転をするべき義務を欠いたものであると認められ、右注視義務を怠らなくても結果回避可能性はなかったとは認められないので、過失が認められると解する。
両車両の衝突箇所は、加害車両のフロントバンパー右角付近と、被害車両の前籠右側面付近であり、衝突後両車両が加害車両進行方向に動いた際に、亡Bの身体右側部分も加害車両と接触した。しかし、亡Bの致命傷となった脳挫傷をもたらした右側頭部打撲については、加害車両との位置関係等に照らし、加害車両と直接衝突したとは認められず、被害車両の転倒により亡Bが路面に転落した際に路面と衝突したものと認められる。
衝突後の眼鏡及び携帯電話(一般的にはヘルメットよりも身体への密着度は低いものと考えられる)の落下位置よりもヘルメットが遠方に落下していた事実、右のとおり亡Bの頭部と加害車両が直接衝突したとは認められないこと、ヘルメットにおいて亡Bが致命傷を蒙った右側頭部付近に特段の損傷が認められないこと等を総合すると、亡Bはヘルメットを着用していた(他に配達中の新聞という荷物もあり、事故現場に落下していた以上着用していた可能性が高いと考える)が、衝突による衝撃ではずれて飛び、亡Bの頭部が路面に強打された時点においては着用されていなかったものと推認される。
右のとおり、本件においては、当初から全くヘルメットを着用していなかった訳ではないが、事故の衝撃によりはずれてしまったものと認められる。そして、そもそもヘルメットは、事故による頭部打撲から原動機付自転車及び自動二輪車の運転者を守るために、道路交通法上着用義務が規定されているものと解すべきである。したがって、本件のように低速度の衝突においてはずれてしまうような着用方法をしていたということは、結果において当初から着用していなかった場合と同様に、頭部打撲による人体への影響を重大なものとする効果を生ぜしめるものであり、当事者間の権衡から、右事実は亡B側の過失を検討するにおいて考慮せざるを得ない。
なお、亡Bの全身の傷害において、胴体各所に出血が認められるのに頭部には認められないこと、救命治療にあたった医師が「ヘルメットを装着していた模様」と(おそらく傷害の状況から判断し)記載している事実(甲一一)は認められる。
しかしながら、創傷の程度、出血の有無は、事故態様や創傷形成の経緯及びヘルメット着用の有無等身体防御の程度の判断材料にはなるが、決定的なものではなく、前記認定のとおり、他の客観的事実を総合して判断されるものであると考えるので、これをもって右認定を左右しない。
以上を総合し、被告Y1側の過失割合は八五パーセント、亡B側の過失は一五パーセントと判断する。
四 結論
以上のとおり、原告らの損害額は過失相殺の結果、前記二の合計額の八五パーセントである原告X1が金三〇九九万六八二八円、原告X2が金二九六八万〇〇七二円となる。
そして、平成一〇年一二月一五日、右損害金に対し、金三〇〇〇万二一〇〇円の内払いがなされた(争いがない)が、これは民法の原則に従い、本件事故日当日から発生している遅延損害金にまず充当され、残りは元本に充当されるものと解すべきである。右事故日から支払日までの遅延損害金は、
60676900×0・05×161/365=1338217
であり、これを右既払金から控除した残額金二八六六万三八八三円の二分の一である金一四三三万一九四二円を、原告らの各元本から控除すると、原告X1については金一六六六万四八八六円、原告X2については金一五三四万八一三〇円となる。
右損害額に照らし、原告X1の弁護士費用は金三二〇万円が相当と認めるので、同人の損害額は合計で金一九八六万四八八六円となる。
そして、これらについて、右支払日後である原告ら請求の平成一〇年一二月一七日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金がつくこととなる。
よって、原告らの請求は主文の限度で理由がある。
(裁判官 櫻井佐英)